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〜とある学生の人生履歴〜
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その昔、仮面ライダーなる者がいた
ショッカー軍団は世界征服のため
ライダー側は平和を守るため

「人間を改造」した




俺には夢があった
いつか売れっ子のバンドマンになること
稚拙と言うかありきたりというか
それでも無い夢よりマシだった
幾度となく手を伸ばし 掴もうと手のひらを広げても
何も触れない日々が続き、誰が聞いてくれるでもない旋律を奏でていた
風ですら音を鳴らし、皆が聞いているのに
俺の「それ」は無いに等しく、宙に浮かび消えているようにも思えた。

それでも、ストリートライブに明け暮れる日々
街行く人に囲まれる事は無くても
通り行く人の耳に確実に自分の音楽は入って行ってるんだなと
無駄な確信を糧に音を鳴らし続けた

彼奴が現れるまでは



・・・・

「久々に生きのいい若者を手に入れたな」
「道ばたに落ちていた者を拾ったまでですよ。
 さて、今回はどうしますか」
「そうだな、ライダーのあの機動力を潰す作戦でいこうか」
「と、申しますと」
「足下を固め、腕をおさえ
 動けなくすることを第一に考えると…」



・・・・

「クモ…」
それが、俺が自称ミュージシャンだった時に聞いた
最後の言葉だった
それからというものの、基礎体力訓練は欠かさず毎日こなし
ショッカーの遣い方などを教わる日々が続き

「そろそろだな。クモ男」

それが俺の名前らしい

「わかりました」

そう、返事しないと
ここからいなくなるのはわかっていた
どこに行って音を鳴らそうと
誰にも認知されなかった俺が
その存在を期待されていることに「生」を感じていた。
杞憂することもなく俺は現場に向かった。



・・・・

こいつがライダーか
こいつだって好きに改造されたわけでは無いだろう
それはわかる
駄目だ。そんなことを考えながら戦えるほど俺は器用じゃない。
「行け。ショッカー」
ありきたりな作戦。同じ行動。
どこかの誰かに似ていたけど、そんなのは見ないフリをした
今、俺はここにいる。

「お前がクモ男か」

その言葉はどういう思いで放たれたのだろうか
俺と同じ境遇の

負の側の方か

とでも思っていたのだろうか
はたまた、同じ改造人間としての哀れみを含んでいたのだろうか
そんなことは俺にはわからない。わかっていたら今頃CDデビューしてる。

「そうだ」

そう答えたころには彼のパンチが眼前にまで迫っていた
そのくらいはかわせる。彼の脅威はその脚力にある
いつもそう教わっていたが、足ばっかりに気を取られているから
同じように負けるのだ。 向こうだって日々鍛錬を積んでいることを
忘れてはならない。
”その時負けた対策”だけでは到底間に合わないのだ。

ライダーの繰り出す拳も脚もよける。受ける。流す。
そうやって、彼の体力を徐々に奪う。
改造されたとはいえ、元は同じ人間。勝つ事を考えると
疲れている相手を打つ方が速い。

息の切れる音。弦の切れる音
似ていないようで似ている。
その瞬間に、さっきまで元気に奏でていた音は
止まる。

左脚を刈り、相手を転ばそうとする
それで、相手はバランスを取ろうとするので
今度は右肩からがっつりと抱え込み、右前方に倒れ込む
すると、自分はうつぶせ、相手は仰向けに倒れるような形になる。

「ライダーの武器はその肉体能力だ」

その言葉をなぞるように、その体を封じる。
上から固め込み、押さえ込む

「ライダー。ちょっといいか」
「…」
「お前がどういう境遇でライダーになったのかは知らない」

その仮面は、反抗の兆しをみせていたが、結局は仮面
あくまで気のせいだ。

「でもな、これだけは言える。
 お前がいなかったら俺はこんな醜くはならなかったんだ。
 どういうことかわかるか」

諦めたのか、抵抗する力が弱くなってきた。
というより、俺に攻める気持ちが無い事を悟ったのだろうか
ライダーはどうやら話を聞いてくれるらしい。

「一般人だけなら、ショッカーだけで十分に襲える
 何も怖い者は無い。一般人は無抵抗だからな。
 だけどな、お前と言う存在が生まれて、そうではなくなった。
 ショッカーより強い存在は世界征服にはあまりにも大きな障害だった。
 だから、コチラ側もそれに対抗すべく改造人間を作り出したのだ。

 一般人を使ってな」

その一瞬、ライダーの眼が見えた気がする。
彼の目もまた、黒く黒く淀んでいた。
動揺するでもなく、焦燥するでもなく
ただ、真っすぐに俺の眼を見ていた。

「わかるか。お前が平和だのなんだの言ってな
 潰して行ってる相手は全て、
 お前の守ろうとしている”それ”なんだよ。
 お前という存在が、お前自身を否定しているんだよ。
 お前さえいなければ…」

そこで言葉に詰まった。嗚咽が走る
ただ、乾いた表面に潤いはいつまでも無く
流れるものも流れなかった。

「こんな、涙も流せない体になったのも
 お前のせいだ。ライダー」

気がついたら、自分でも驚くくらいの大声で叫んでいた。
カッコいい、情熱のこもった声ではなく
運動部の気合いの入った声でもなく
ファルセットと言うべきか、裏声と言うべきか
ほとんど聴こえないくらいの掠れた声で
それでも腹の底から、ひねり出すように叫んでいた。

「…それでも、俺は守らなければならない」

ぼそりと、本当に静かにライダーは言い放った
その言葉もまた、掠れたような声だったが、
弦は繋がっていた。

「それが、どこかの誰かの”エゴ”だったとしてもな」

そう言い切った頃には、かなりの距離を吹っ飛ばされていた。
距離が開いてしまった。来る。

「ライダァアァァアァアアァアァキーーーーーーーーーーッック」

インパクトの瞬間、いつもよりその脚は熱く
ほんの少しの悲しい期待感を乗せていたように感じた。
初めて受けた蹴りなのに、なんでそう思ったかは知らない。
次を考えようとした頃には、俺は散り散りになっていたからだ。



・・・・

俺はミュージシャンになりたかった
その前に、小さな頃、正義の味方になりたかったと言っていたような気がする
でも、やっぱりなりたくないなと
今なら、むしろ今だからわかる

”その正義はどこに向いているのか”と



〜クモ男、終わり〜
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